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「沖田君さあ、俺の顔なんて見てて、面白い?」


事もあろうに、銀時は本日も真撰組屯所の門をくぐっていた。
万事屋からの移動途中見上げた冬の空は、夏のそれよりも格段に低く、雲は今にも青と溶け合ってしまいそうだ。
北風を全身に受けながら進む感じは、いつ体験しても身体中の熱を奪われる気がして、到底好きにはなれそうになかった。

「どうしてそんな事聞くんです?」
「いや、だって。…沖田君、さっきから俺の方ばっか見て、何も食べてないでしょ」

テーブルを挟み、目の前に対座する男に疑問を投げつけてみる。
この男、銀時が門をくぐり出迎えたのは、実は真撰組隊長・沖田総悟だった。
銀時よりも幾分か身長の低い彼は、銀時がこの屯所を訪れる度に必ず迎えてくれるのだ。
今日もこうして屯所内部に案内され、大好きな甘味に在り付けるのは総て彼の御蔭だった。
だが何を思うのか、沖田は先刻からずっと頬杖を付き、銀時を凝視しているではないか。

「嫌、ですかねェ?」
「え、ううん、そう言うわけじゃないんだけど」

銀時は慌てて首を横に振り、沖田の言葉を否定する。
彼には感謝しているのだ、医者に糖分摂取を制限されおまけに収入が殆どない銀時は、沖田と共に甘味を食せるこの瞬間を、 何より大事にしていた。
思えば、この屯所までの道のりは、いつもルンルン気分でスキップなんてしてしまう程に浮かれている。
故に、沖田の部屋に通され二人きりの時に顔を見つめられるのは、別に嫌な訳じゃない。
むしろ、嬉しい…のかも知れない。
唯、余り見つめられると…


「…た、食べにくいんだけど…」
「何か言いましたかィ、旦那」
「あ、な、何でもないよ!」


尋ねられた途端そら笑いを作ってみせ、何とか上手くこの場を切り抜ける。
沖田もそれ以上の追求はする事無く、また銀時の顔を見つめていた。


「(…う、本当に食べにくいんだけどなあ…)」


差し出されたパフェにス…とスプーンを入れると、クリームはいとも簡単にさじの中に収まった。
後はそれを口に運べば良いだけ。
単純な作業のそれも、沖田に見つめられていては、どうもぎこちない。
舌上に伝わるとろりとした甘さも、今の銀時には無味にさえ感じてしまう。

「(どうして今日は、こんなに見られてるんだろ…)」

常に沖田が凝視しているのかと問われれば、それは間違いだ。
普段の彼なら、本日と同じく銀時の相席に座り、一緒に甘味を食している筈だから。
沖田の、このおかしな行動は、今日始まった事だった。
ちらり、瞳を前に移せばぶつかる視線、そして視界に広がる穏やかな笑顔。
銀時は慌てて視軸を元のパフェへと戻す。
大体、沖田に見つめられて平常心でいられる方が変だ、と銀時は思う。
十代後半にしては幼いが、間違いなく美形の部類に入る顔つき。
色素が薄い鮮やかな髪の毛は、風になびくとひらりと宙を舞う。
いつもは無を描く表情も、銀時の前でだけは優しくふわりと笑う事を、彼は知っていた。
街を歩けば女から副長・土方の黄色い喚声ばかり飛び出すが、もし沖田が銀時に向ける表情をそのまま女衆に見せれば、 沖田も満更負けていないと感じてしまう。

「(年下、しかも十代のくせして格好良いなんて、反則だ)」

いくら自分が頑張った所で、彼や土方のように格好良くなどなれやしないのだ。
悔しいが(特に土方に対して)、負けを認めるしかない。
俺も元がもっと良ければなあと、パフェを口に運ぶ頻度を増しながら、銀時はしみじみと思う。

「銀時さん、パフェ、付いてやすぜ?」
「…え?あ、何処?」

意識が完全に沖田から飛んでいたらしく、彼に眼前で手を振られる事で銀時はこちら側に戻ってきた。
沖田に言われるまま、即座に掌で口元を押さえてみる。

「えと…ここ?」
「もう少し左…あ、今度は右でさァ」
「うーん?わかんない…」
「俺が取って差し上げましょう。ちょっと顔をこっちに」

顔面を右往左往してみるものの、結局沖田が示す場所には辿り着けず。
かと言って、沖田の前でこのままクリームを付けているのは恥ずかしいので、銀時は彼の申し出を受け入れる事に。
テーブルに両の手をつき、ずいと沖田の方へ身体ごと前に出る形となる。


「ありがと、沖田君。これでいい……んっ!?」


刹那、銀時の視界一杯に浮かんだのは沖田の掌…ではなく、彼の整った顔。
そして唇に触れる温かな感触。
それが沖田のものだと気付くまでに、銀時は彼から三回の口づけを頂いていた。

「な、なななな!?」
「美味しかったですぜィ、甘くて」
「そ、そうじゃなくってーだなっ!!」

段々とお互いの身体を離して行くと目にとまるすっかり紅潮した銀時に、沖田はくすりと微笑む。
こうなる事は全く予想できていないようだった。
だがまあ、そんな抜けている所も可愛いと、沖田は感じてしまうのだが。
銀時の存在、行動、総てがいとおしく思って止まない。
そんな気持ちに気付いたのは、果たしていつだったか。
少なくとも、銀時を屯所に招いた時には、既に認知していた筈だ。
後はゆっくり彼を落とせばいいと、そう心に刻み、事あるごとに銀時をこの場所に招待していた自分がいた。

「さっきの質問、お答えしやしょうか?」
「…え?」
「『俺の顔なんて見てて、面白い?』ってのでさァ」

沖田は再び、ふわりと穏やかに笑う。
銀時が弱い、あの笑顔だ。


「銀時さんの事、愛しいから。だからずっと見てても飽きないんですぜ」


瞬く間に顔を赤く染める銀時に、沖田は内から幸せを感じていた。



(大好きです、銀時さん)
(ほのぼの沖銀)
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