捕われの檻
「もう一度、俺と一緒に来ねェか?」
夏特有の湿気を含んだ夜風を肌に感じながら、左目を覆う包帯を整え、男・高杉はそう問うた。
「のうのうと生きてきたテメーが今でもあんだけの牙を隠してるたァ、感心したぜ。どうだ、また俺と共に行動しねーか」
一部混乱はあったものの、鎖国解禁二十周年祭典が無事華やかに催されたあの後、漆黒の髪色と瞳を合わせ備える高杉は、
かつての戦友・銀時を祭り会場裏にある寂れた神社に招いていた。
偶然とも必然とも思われる再会を果たした彼らだが、間に流れる空気は極めて重く、暗い。
互いに感動する様子もなく、銀時は迷惑そうに陰気な溜息を吐き出した。
「あのさあ、高杉よ、俺はもうお前と一緒に行く気はねえ」
そう告げると、眠たそうに欠伸一つ。
高杉の話など興味がありません、とでも言いたそうに、ふわりと風に揺れる銀の癖っ毛を一房指に絡め取り弄ってみせる。
そんな銀時の態度を横目に、高杉は口端を吊り上げゆっくりと口を開けた。
「こんな所でこのまま腐ってくたばるには勿体無ェ男なんだよ、てめーは。…それともなにか?また両手に護るもん、抱えちまった
とか言わねーよなァ?」
闇夜に浮かぶ高杉の瞳は、鈍く怪しげな光を放っていた。
それは彼の内部で現在も獲物を狩る瞬間を待ち続ける、獰猛な黒き獣のものであろうか。 銀時には判断し兼ねた。
「いくらお前が誘っても、もうそっち側に行く気はねーよ。その気持ちは変わらん。他を当たってくれ、他を。ついでに今後俺の前に
現れないでいてくれると、大変嬉しいんですけど」
…ホラ、お前って目立つじゃん?一緒にいると俺まで怪しい人になっちゃう訳よ。
近くの木々に寄りかかりながら、銀時はひらひらと手を振る。
何度勧誘されようが、銀時自身の答えは既に出ていた。
決して揺らぐ事のない信念を己の心臓に突き刺している限り、彼の考えが変わる事はない。
攘夷戦争時の彼をそのまま見ているようで、高杉は耐えられず笑みを零した。
「フッ、いかにもお前らしい返事だな銀時ィ。…そうか、それじゃあ仕方ねえ……!」
「高杉……、!? ―――ふっ!」
突如として銀時に襲い掛かった影、詰められた者間に目を見開き驚愕した時には既に遅し、銀時の身体は高杉の腕によって
身動きが取れぬ程に固く抱きしめられ、そして。
「ん、うっ………ふあっ!」
己の唇を、高杉のそれによって塞がれていた。
舌を絡め取り、わざと音を立てて口内を犯して行く高杉の身体を震える腕で押し返すものの、全くと言っていい位効果はない。
相手にされるがまま、ようやく互いの影が離れた頃には、銀時の全身の力はすっかり抜け切り、もはや支え無しでは立っている事も
ままならなくなっていた。
「た、かすぎっ!テメ…!」
薄っすら潤んだ眼で睨み返すも、相手には何の効能も無く。
先刻よりも大きく笑みを浮かべる高杉は、満足そうにこう告げた。
「覚悟しとけよ、銀時。てめーを得るのは他でもねえ、この俺だ。これは運命だからなァ。……また迎いにくるぜ、その時まで
他の奴のもんになるんじゃねーぞ」
銀時を一人残し踵を返し去る高杉の後ろ姿を、満月がきらきらと照らし出していた。
そんな彼の姿を見ながら、銀時に残ったのは、じとりと纏わりつく夜風と、焼けるように熱い唇だけだった。
>た、高銀です…(汗)高杉偽りですみませ…;