おかえり。




久方振りに見たかの男の姿は、実に痛ましいものだった。
漆黒の隊服ゆえはっきりとは分からないが、恐らく全身血糊に包まれているのだろう。
特に左肩から覗く紅の肉片が彼の傷の酷さを物語っており、土方は思わず目を瞑りたくなる。

「…大丈夫か」

土方が静かに問えば、銀時は弱々しく頷く。
瞳を閉じ俯き加減なその様子から、銀時が大分衰弱しているのは間違いなかった。
無残に破壊された車両にもたれかかり、立っているのがやっとだ。
思えばこの男がこれ程までに弱っている姿を未だかつて見た事がないと、土方は思った。
土方の瞳に映る銀時は、常に捕らえ所がなく、それでいて誰よりも強かった。
捕らえようとすればまるで蝶のようにひらりと舞い躱わされ、いざ真剣に向き合われると鬼神の如き力で圧倒される。
だからと言って、勿論彼は本物の鬼神などではない、人間だ。
以前間近で男の肌を見た時、無数の刀傷が未だ完全に消えることなく存在を顕にしているのを土方は覚えていた。
それは治療の専門医が手を加えたものではなく、自身で針を入れた証拠。
銀時は己の事を全く語りたがらないが、同じく数々の死線を彷徨った土方にしてみれば一目瞭然で。
昔から誰にも頼らず一人で生きてきたこの男の深くを知った時、土方は心の底から止め処なく愛しさが込み上げていた。

「…ひじ、かた…?」

不意に紡がれた言葉に、土方の意識はこちら側へと戻ってくる。
左腕を押さえ肩で息をする銀時は、いよいよ苦痛そうだった。
一刻も早く病院へ連れて行かなくては、土方は今一歩銀時へと近づく。
刹那、土方の視界はふわりと揺れる銀色で一杯になっていた。

「ぎんとき…?」
「…お前、なんだなあ」
「?」

土方に凭れる形で抱きしめた銀時は、安心から溜め息を吐き出した。
腕に上手く力が入らないのだろう、それでも震えながら必死に土方を強く抱こうとする。
状況が掴めずただただ驚くばかりの土方も、銀時の心音を聴き彼がこの場に存在している事が分かると、己の心が軽くなっていくのを知った。


「戻って、来たんだよな。トッシーじゃなくて…、ちゃんとお前なんだよなあ、土方」


安堵と歓喜の混じる声色で話す銀時の表情さえ見る事は叶わないが、『土方』という己が戻ってきたその事実を銀時がいかに嬉しく思っているか、土方には感じ取る事が出来た。
平生自分ばかり相手に想いを伝えるだけで、銀時にとって自身など唯の知り合い程度のものかと思っていたのに。
銀時も自分と同じ気持ちを抱いていてくれた事が、更に土方の心を満たしていく。

「ああ、俺だ。お前のお陰で戻って来れた。…心配かけたな」
「へへっ、そう思ってるならあとでパフェくらい奢れよ、コノヤロー」
「奢ってやるよ、腹いっぱい食べさせてやる」
「おう、期待してんぞ」

互いに笑いあえる幸福さをかみ締め、恋人であるこの男をもう二度と不安にさせまいと、土方は己の心に誓いながら銀時を優しく抱きしめた。


 
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