そう、君こそが、




かの男は生まれてこの方、唯たった一つのものを欲していた。
それさえ手に入れば、彼は幸福を感じられただろうに。
しかし、それは男にとっては非常に入手が困難なもので、それ故に男は幼き頃より孤独を感じていた。
やがて男が成人しお国の重役に就いても、彼の孤独は消える事はなかった。
……だがどうだろう今の状況はと、男 ・伊藤鴨太郎は己の頭の中で現在の状況を整理しようとする。


「先生、俺には…俺たちには、アンタが必要なんだ」


爆破され今にも谷底に落ちようとしている列車内で、近藤は伊藤の今では片方となってしまった腕を懸命に掴み、そして優しく語りかけた。
つい今し方まで自身を暗殺しようと企てていた男を助けようとするなどこの男は一体どこまでお人よしなのか、伊藤は感じる。
しかし今となっては近藤のその気質は伊藤にとって嫌な感情を呼び起こすものではなく、逆にとても心地のよいものだった。

「君は…僕が犯した罪を理解した上で、そう言ってるのか」
「ああ、勿論だ。それじゃなきゃ、こんな事言わねェさ。もう一度言う、俺ァ、アンタにいてほしかった。アンタに沢山、色んな事教えてほしかったんだ、先生」
「…っ、」

心に思うもの全てを問えば、近藤は実に真っ直ぐな瞳で伊藤に答えた。
その目には一点の迷いもなく、伊藤は次に紡ぎ出す言葉に迷ってしまう。
どうしてこの男はここまで自分を信用出来るのだろう、自問しても適切な回答が見当たらず近藤へ視線を戻せば、再び彼の笑顔が目に入った。

「…僕は、君の傍にいても、いいのか」

微笑みかける近藤に伊藤は現在の己の正直な気持ちを問いかける。
自分の欲していたものを初めて与えてくれた、この男に。
すると近藤は伊藤の気持ちに応えるように満面の笑みを浮かべ、そしてこう紡いだ。


「先生がいてくれねェと、俺ァどうすればいいのかわからねえんだ。だからよ、これからも俺の傍にいて俺を助けてくれないか」


その言葉に伊藤がどれだけ救われたか、近藤は知りもしないだろう。
しかしそれは確実に伊藤の心を解し、彼に掛替えのないものを与えていた。


「…そうか、君こそが、僕がずっと求めていたものだったんだ」


伊藤はそう呟くと、もう二度と放さぬよう、近藤の手を強く握り返した。






鴨近のような鴨→近のような…何とも未消化な作品ですみません…!
 
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