君が彼を思うたび、僕の心は削られていく




「ねえ、坂田氏。………僕じゃ、駄目かな」


近藤勲を救出するため真選組隊服に着替えながら、土方は銀時にそう問うた。
姿、形は土方そのものであっても正確には彼ではないこの男を、銀時は静かに見つめる。

「…それ、今日で何度目?お前あと何回言えば気が済むんだ?」

半ば呆れながら溜息を吐き出す銀時に、土方は慌ててこう告げた。

「だって…!僕は見た目は君の知ってる僕かもしれない…けど、でも中身は僕で…!だから…その…」

上着に袖を通し終えた所で仕上げの白いスカーフを拾い上げ、首に巻き付ける。
言葉を紡ぎ出す事に精一杯なのか、土方の手はスカーフの裾を握るのみで一向に進まない。
見兼ねた銀時は再び大きな溜息を吐くとゆっくりと土方に近づき、そして男の代わりにスカーフを巻き始めた。

「…ったく、これくらい簡単に巻けるだろ?テメーがいつも付けてるモンだろーが」
「……それは、僕じゃない」
「………そう、だな」

土方の一言を耳にした途端銀時ははっと瞳を大きく開き、次の瞬間にはその顔に寂しげな笑顔を浮かべていた。
それでも動かす手を止めない銀時に土方はどうしようもなく胸が締め付けられ、刹那、己の唇を銀時の前髪へと埋めた。

「…!おまえ…!」
「…ねえ坂田氏、何度でも言うよ。僕じゃ、駄目かな。僕だったら君の前から消えたりしない。寂しい思いはさせない。容姿だって、彼と一緒だ。こんな僕じゃ、駄目?彼の代わりにはならない?」
「……」

土方の問いに、銀時は今度こそその手を止めた。
土方から視線を外し、己の足元を見つめる。
その間も彼の真剣な視線が痛いほど自分に突き刺さるのが分かり、ぎゅっと目を瞑った。

ほんの少しの時間が経過した後で、銀時は口元に軽く笑みを浮かべると顔を上げ、土方を優しく見る。


「お前の気持ちは嬉しいよ。…でも俺が好きなのはお前じゃない、アイツなんだ。顔が一緒でも、駄目なんだよ。…ごめんな」


それだけ言い残すと、銀時は土方に手早くスカーフを巻いてやり、そして自身も隊服に着替えるべく土方の前を離れていった。


「……それくらい、ずっと君を見てるから知ってるんだ。君は僕を見てない。……でも苦しいなあ。こんなに好きになるくらいなら、違う人に乗り移ればよかった」


静かに流す涙は、土方のみがその温かさを知る。



(本当に、君の事を好きになってしまったんだよ。君が想う人は、どうして僕じゃないんだろう)
(トッシー→銀)
 
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