優しい彼と機関銃




「…お前、それ持ち始めたんだな」
「ん?」

月明かりに照らされる中、銀時は隣に立つ坂本の手元で鈍く光る金属性のそれに視線を向けるとそう紡いだ。
己が以前所持していた真剣とはまた異なった輝きを放つそれは、坂本の手にやけに馴染んで見える。
銀時が暫く物珍しげに見つめていると、坂本は口元に柔らかな笑みを浮かべた。

「これじゃったら、さっきのように味方も敵も誰も傷つけずに済む。げによう出来とる武器じゃあ」

両の瞳を輝かせ嬉しそうに語る坂本は銀時にはまるではしゃぐ子供のように感じられた。
一見頭が空っぽのように見えるが、この男の本心は普段の様子から想像も付かない程賢く、そして誰よりも優しい事を銀時は理解している。
先刻の出来事がまさにそれを物語っていて、敵へ向け威嚇射撃を放つ事で敵の戦意を喪失させ、結果的にはこちらも相手側も誰一人として傷を負わなかったのだ。
ふと、銀時の脳裏に攘夷戦争時代の坂本の面影が浮かび、そう言えばあの頃からコイツは敵味方問わず誰かが傷つくのを酷く恐れていたな、と心の中で呟いた。
同時に、そんな情深い坂本にいつしか惹かれていた自分を思い出し、温かな感情に包まれていた。

「お前はあの頃から全然変わってないのな」
「そうか?」

微笑みながら問う坂本に、銀時はそうだと肯定した。
仲間のみならず敵にも情けをかける優しい所が、昔とちっとも変わっていない。
それは自分にとって実に好ましく嬉しい事なのだと、口に出すのは顔から火が出るほど恥ずかしいので、一生伝える気はないけれど。

刹那、坂本は銀時にゆっくりと近づきそのふわりと揺れる銀髪に指を絡ませながら、

「おんしは変わったのう」

と、一言告げる。
その表情には今もなお穏やかな微笑みが浮かんでいた。


「昔より、よう笑うようになった。いい方向に進んだんじゃな」


坂本の言葉に、銀時ははっとする。
白夜叉として恐れられていたあの頃、気を許せる者など数える程しかおらず、銀時は常に無表情を繕っていた。
しかし坂本はそんな銀時の心にするりと潜り込み、少しずつ銀時の心を解き解し、笑みを教えていったのだ。

「おまんは笑った顔が一番美しいぜよ」

そう遠くない過去に目の前の男によって告げられた言葉を、銀時は今夜再び耳にする。
それはかの男からの言葉という所に意味が有り、銀時はその頬をほんのりと朱に染めた。

「…あほ、それ何度も聞いてる」
「あははは!わし流のプロポーズじゃき!」
「そ、そんなこと道端で堂々と言うんじゃねえよ…!やっぱりお前ってバカ!前とちっとも変わってねえ!」


満面の笑みを浮かべ抱きついてきた坂本を軽く罵ると、近づいてきた唇に銀時は静かに己のそれを重ねた。
 
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