その日、屯所で勤務中の土方の元に銀時はひょっこりと姿を現した。
世間はゴールデンウィークで浮かれる中休み返上で公務に付く土方は、万年ゴールデンウィーク（と言うのは土方の偏見だが）な銀時の姿を見るや否や途端不機嫌になる。
と言うのも、土方が勤務中の時は銀時は大抵彼の邪魔をしていたのだ。
視線で『仕事の邪魔をするな』的なオーラを送ってみるのだが、それに気付かないのかはたまた気付いても無視しているのか、銀時は飄々と満面の笑みを向けながら土方に近づく。
それに対し仕事の邪魔をされては堪らないと、土方は口にしていた煙草を灰皿へ強く押し付け銀時の方へと体を向けた。

「オイ、俺ァ今仕事してんだ。用があるなら後で…」
「はい、これ」
「…あ？」

刹那、目前に広がる一杯の白に、土方は一瞬眩暈を覚える。
ほのかに香る心地のよい匂いからその白が花の一種であるのだと認識するのに、少々の時間が必要だった。
両の手でその白い花を押し返せば、銀時のほほえみが再び土方の瞳へと入り込んできて、土方は己の頬が熱くなるのを感じる。
そんな自身の姿を銀時に見られるのは恥ずかしいので（まるで自分ばかり相手に惚れているような気がしてばつが悪いのだ）、とっさに顔を左右に振った。
すると土方の行動が気になったのか、銀時は首をかしげる。

「どったの、俺ただ花を持ってきただけなんだけど」
「…はな？」
「そ」

―――綺麗だろ？
そう告げ白く小さな花を抱きしめ笑う銀時の容姿は、土方にとってはどんな花より美しく、そして輝いていた。
銀時の笑顔に見惚れ暫く動けなくなっている土方を他所に、当の銀時は土方の腕の中に己が持参した白い花束をそっと置くと、またにこりと笑みを作って見せた。

「はい、これお前に」
「…俺、に？」
「そだよ」

現在の状況を全く把握出来ていない土方の頭上には、はてなマークが大量に浮かんでいる。
その様子に銀時はくすりと笑い、プレゼント、と一言添えると、くるりと踵を返した。
そして副長室の襖の前まで進んだ時、銀時は未だ花束の意味を理解出来ていない土方へ、先程の言葉に更に付け加えるべく口を開いた。

「今日、誕生日だろ、お前」
「………あ、」
「だからね、優しい銀さんが、年下の恋人のトシくんに、愛のこもったプレゼントだよ」

―――お前の事だから、仕事が忙しいとか言って、忘れてるだろうと思ったから。だから会いに来てやったんだよ。有難く思えよな。
信じられない、とでも言わんばかりに目を開きほうける土方の姿に、銀時は満足げに笑みをふくんだ。
彼は元々土方の公務の邪魔をする為ではなく、初めから土方の誕生日を祝う為に屯所を訪れていたのだ。
それでもきっと土方は己の誕生日など忘れているだろうからと、どうせなら土方を驚かせてやりたくて、銀時は花屋へ行き、先刻土方へ手渡した白い花を購入したのち屯所の門をくぐった。

銀時が選んだその白い花の名は『スズラン』。
自分の今の気持ちを伝えるには丁度よい花だった。

「本当は、今日は子供の日だから柏餅にしようとか、考えたんだけどな。お前甘い物あんまり好きじゃないみたいだし。花なら嫌がる奴もいねーだろーと思って」
「そ、そんなん…！」

突然のプレゼントに余りに動揺して上手く喋れないのだが、土方は、お前から貰えるんだったら何でもいいんだよ俺ァ！、と心の底から叫びたかった。
普段銀時からの愛情表現が乏しいので好きなのは自分だけだと思っていただけに、まさかこのような形で不意打ちを食らうとは、策士の副長も考えつかなかった。

「まあ、どうでもいいんだけど。それよりそれ、お前も知ってるだろ。スズランって花だ。花言葉があるから、調べとくの、宿題なー！」
「…は！？」
「つ、次に会う時まで調べとかなかったら、別れてやるから…！マジだぞ、これマジだかんな！ちゃんと調べておけよ！そ、それと、仕事とかあんまし無理しすぎるなよなバカヤロー！」
「え、おい、ちょ…！銀時！？」

自ら土方にプレゼントした花の花言葉を宿題として土方に課すや否や、その花言葉をふと頭に思い出してしまい、途端銀時は頬を真っ赤に染めてしまう。
するととてつもなく恥ずかしくなってしまい、銀時は早口で用件のみ述べると、制止する土方を振り切り勢いよく部屋から出て行ってしまった。
後にぽつんと一人残された土方は、今までの出来事が夢のように思えてその場で固まるも、ふわりと香りを放つ己の腕の中の小さな花達に、嬉しそうに笑みをこぼした。


「…上等じゃねえか。この花にどんな意味があんのか、今すぐにでも調べて、テメーを追ってやるよ」


そう漏らすと、土方は自分のパソコンへと手を伸ばし、そのスイッチを入れた。


土方がスズランの花言葉を知り更に心を温かくし、公務そっちのけで万時屋へ走り銀時を抱きしめ愛でたのはまた別のお話。



*『スズラン(学名：Convallaria keiskei)』…「幸福・純潔・純愛・清らかな愛・繊細」

Happy Birthday 土方！